Nguyễn Đức Phương(Phương Giò):記憶、素材、そして暮らしのあいだに

1982年生まれのNguyễn Đức Phương(Phương Giò)は、2007年にベトナム美術大学を卒業。絵画、陶芸、彫刻、インスタレーションなど、さまざまな素材と表現方法を横断しながら制作を続けてきたアーティストです。
 
ベトナムの伝統的なハム「giò chả」づくりで知られる職人の村、Ước Lễに生まれ育った彼は、ひとつの素材や表現形式にとらわれることなく、独自のアプローチを少しずつ築いてきました。各地を旅し、伝統的なものづくりが息づく村々を訪ね、人や土地、素材と出会うこと。そして、制作と探究、研究を重ねていくこと。その一つひとつが、彼が日常を見つめ、芸術へと昇華していくうえで大切な要素となっています。
 
これまで、Manzi Art Spaceで個展《Ngắm giấy》(2017)を開催したほか、《Tỏa 2》(VCCA、2018)、《In Situ》(Manzi、2019)、《Xem đêm – Càng đêm》(2020)、Đàn Đóとともに発表した《Đó là đâu – Đó là đây》(VCCA、2020)など、さまざまな展覧会やプロジェクトに参加してきました。
 
また、2018年にはA. Farmのアーティスト・イン・レジデンスに参加。2023年にはSix Senses Côn Đảoで行われたプロジェクト《SỰ SỐNG》でアートディレクターを務めています。

1. Nguyễn Đức Phương ― 暮らしとの出会いから始まる創作

アーティスト Nguyễn Đức Phương(Phương Giò)
出典:Facebookページ「VCCA Vincom Center for Contemporary Art」
 
Phươngにとって、創作とは、あらかじめ用意された答えを探すことではありません。2024年4月3日にハノイで行われたNguyen Art Foundationのインタビューで、彼は、制作することそのものが自分自身の問いと向き合う方法であり、創作の過程で生まれるさまざまな「結び目」を一つひとつ解いていくようなものだと語っています。

そのプロセスの出発点のひとつとなるのが、Phươngにとって身近であり、創作の基礎ともいえる素材「土」です。ひとつのかたちとして完成する前に、彼は土の色や性質をじっくりと観察し、試しながら、その素材が持つ魅力や可能性、そして限界を見極めていきます。
 
素材そのものと向き合うなかで、Phươngは一つひとつの作品が持つ本質を引き出そうとします。そうして土は、単にかたちを生み出すための素材ではなく、作品が語る物語の一部となっていくのです。



土という素材を探求するNguyễn Đức Phương
出典:アーティスト Nguyễn Đức Phương 提供
 
Phươngの創作において、色彩もまた、単に作品を美しく見せるためのものではありません。彼は色そのものをじっくりと探求し、とりわけ自然の素材から生まれる色に目を向けています。
 
土や草木、紙、木といった身近な素材は、彼の手を通して、その土地の記憶やそこで重ねられた体験の痕跡を宿す存在となり、作品を形づくる大切な要素になっていきます。
 
アーティスト Nguyễn Đức Phươngによる木を用いた作品
出典:アーティスト Nguyễn Đức Phương 提供

Nguyen Art Foundationは、Phươngについて、現代のベトナムに向けた眼差しや観察を、長年にわたって視覚的な作品へと昇華してきたアーティストだと紹介しています。その創作において、土や植物由来の色、伝統的な紙といった素材は、重要な役割を担っています。

アーティスト Nguyễn Đức Phươngによる土を用いた作品
出典:アーティスト Nguyễn Đức Phương 提供

 

こうした試行錯誤と、余分なものをそぎ落としていく過程のなかで、Phươngはある種の自由を見いだしたのかもしれません。Nguyen Art Foundationの同じインタビューで彼は、自然も人間も本質的には変わらず、そこにあり続けると気づいたとき、自由を感じたと語っています。
 
だからこそ彼は、思考も表現もできるだけシンプルにし、自らが伝えたいことを説明しすぎるのではなく、作品そのものから静かに立ち上がらせることを選んでいます。
 

2. 民俗の記憶から現代の物語へ

2017年頃から、Phươngの制作にはひとつの関心がより鮮明に表れるようになります。それは、ベトナムの民俗文化と、そこに息づく人々の暮らしです。
 
なかでも、ドー紙(giấy dó)は彼にとって特別な素材となりました。Phươngにとって、紙は単に絵を描くための支持体ではありません。古くから紙は、書物や文献、知識を書き記し、ある世代が残したいものを次の世代へと手渡していくための役割を担ってきました。
 
《Sơ yếu lý lịch》
Nguyễn Đức Phương、2021年、40 × 40 cm
ドー紙、藍、金箔、銀箔
出典:Manzi Art Space
 
こうした背景から、Phươngはドー紙を、民俗の暮らしや記憶を記録するための新たな方法として捉えるようになりました。
 
彼が目を向けているのは、すでによく知られたイメージだけではありません。調査を重ねるなかで、いまだ十分に研究されず、記録にも残されていない儀礼や造形、民俗文化の表現が数多く存在することに気づきます。そのなかには、人々の営みや記憶のなかにだけ残り、誰かから誰かへと語り継がれてきたものもあります。そうした断片もまた、Phươngにとって大切な観察の対象となり、作品へと姿を変えていきます。
 
そのため、彼の作品には素朴で親しみやすい佇まいがあり、ときにベトナムの民俗的なイメージを思わせます。しかし、それは単なる懐古にとどまりません。現在という場所から過去を見つめ直すこと――ときには穏やかに、ときにはユーモアを交え、そしてときには風刺を込めながら。そこには、過去と現代を静かにつなぎ直そうとするPhươngならではの視点が表れています。
 

《Lịch sử mỹ thuật thời Covid - Trần Trung Tín》
Nguyễn Đức Phương、2020年、19 × 27.5 cm
紙にインク、水彩
出典:Manzi Art Space
 
こうした視点は、近年のPhươngの制作にも引き継がれています。2026年5月にハノイ博物館で開催された、ソーシャルメディア時代の絵画をめぐるトークイベントでは、オンライン上で生まれるさまざまな現象を作品に取り入れていること、さらに映像表現やAIを用いた試みにも取り組んでいることを語りました。
 
新しいテクノロジーを取り入れることは、必ずしもアーティストの根本的な関心を変えることを意味しません。扱う素材や表現方法は変わっても、日々の暮らしや社会を見つめる彼の眼差しは、変わらずそこにあります。

個人での制作活動と並行して、Phươngは、ビジュアルアートと音楽、舞台芸術、地域文化を結びつけるさまざまな分野横断型のプロジェクトにも参加してきました。
 
これまでĐàn ĐóやPhù Sa Labと協働し、《Lời của tre》《Chém Gió》《Đó là ở đâu – Đó là ở đây》といったプロジェクトに携わっています。こうした活動では、絵画やスケッチを制作するだけでなく、舞台美術にも関わり、ひとつの作品から空間そのもの、そしてそこで生まれる体験へと、自身の表現の領域を広げてきました。
 
アーティスト Nguyễn Đức Phươngが描いたĐàn Đóの作品
出典:Đàn Đó Facebookページ

総合芸術公演《Lời của tre》― Nguyễn Đức Phươngが舞台美術を担当
出典:Hanoi Grapevine
 
なかでも注目されるのが、2023年にSix Senses Côn Đảoで行われたプロジェクト《SỰ SỐNG》です。Phươngはこのプロジェクトでアートディレクターを務めました。
 
満月の夜、Côn Đảoのビーチを舞台に開催された《SỰ SỐNG》は、パフォーマンスアート、音楽、ビジュアルアート、そして自然の風景をひとつにつなぐ試みでした。Phươngは舞台とその周囲の空間におけるビジュアル表現を手がけ、砂や水、風、風景といった、その場所にもともと存在する要素のなかにアートが自然に溶け込む空間をつくり上げました。
 
出典:SỰ SỐNG(susong.com.vn)
 
こうしたプロジェクトからもわかるように、Phươngの制作は、ひとつのアート作品を生み出すことだけにとどまりません。素材から空間、そしてそこで生まれる体験まで、彼はアートをその土地の暮らしや文化と結びつける方法を探り続けています。
 

3. 身近なものがAnmira Hoi An Village of Arts and Cultureで新たに息づくとき

Nguyễn Đức Phươngの創作は、いつも身近なものから始まります。長年にわたり、さまざまな地域の文化や伝統工芸の村、その土地ならではの素材を探求してきた彼は、土やドー紙、草木から生まれる色、民俗的なものづくりへと立ち返りながら、現代の暮らしを素朴で繊細な眼差しで見つめてきました。
 
Phươngにとって、素材とは単に作品を形づくるためのものではありません。そこには土地の記憶や時間の痕跡、そしてその素材をつくり、使い続けてきた人々の物語が刻まれています。そうした思いや精神をかたちにした作品を、彼はAnmira Hoi Anにも届けています。
 
Phươngのアートへの向き合い方は、Anmira Hoi Anが大切にしている考え方とも自然に重なります。どちらも、まったく新しいものをつくり出そうとするのではなく、すでにそこにある価値を見つめ直し、大切にすることから始まります。
 
Phươngにとって、それは土や紙、手仕事、民俗文化のなかに息づく美しさを見つけること。Anmira Hoi Anにとっては、自然や建築、素材、そしてホイアンの土地に根づく文化を、滞在そのもののなかで感じられる体験へとつなげていくことです。
 
アーティスト Nguyễn Đức Phươngの作品
出典:アーティスト Nguyễn Đức Phương 提供

Anmira Hoi Anの伝統的な趣を感じる空間
出典:Anmira Hoi An

このつながりは、空間に展示された作品だけにとどまりません。Phươngはこれまで、ワークショップを通して、自身の手仕事やものづくりを宿泊施設という空間にも届けてきました。
 
Amanaki Thảo Điềnでは、ドー紙を使ったランタン作りのワークショップを開催。ドー紙と竹の骨組みを組み合わせながら、素朴な風合いのなかにも伝統的な手仕事の魅力が息づくランタン作りを参加者に伝えました。

アーティスト Nguyễn Đức Phươngによる「五行(Ngũ Hành)」のランタン ― Amanaki Thảo Điền、2025年中秋節

ワークショップで参加者が自ら手作りしたドー紙のランタン
 
アーティスト Nguyễn Đức Phươngの指導によるドー紙ランタン作りワークショップで制作された作品の一部
出典:Amanaki Thảo Điền Facebookページ

Anmira Hoi Anでは、こうしたつながりが、2025年の「Chạm vào Hội An」シリーズの一環として開催されたワークショップ《Lung linh đèn giấy dó – Thổi hồn cho ánh sáng cổ tích》へとさらに広がりました。
 
参加者は完成した作品を眺めるだけでなく、実際にドー紙に触れ、自らの手でランタンを制作します。手を動かしながらものづくりを体験することで、ベトナムの伝統素材であるドー紙を、より身近に感じられる時間となりました。
 
アーティスト Nguyễn Đức Phươngが参加者にランタン作りを指導する様子
出典:Anmira Hoi An
 
PhươngとAnmira Hoi Anの関係で興味深いのは、彼がこの場所を外から眺めてきただけではないということです。実際にここに滞在し、空間のなかで時間を過ごし、庭を歩き、光や素材、そしてこの場所に流れるゆったりとした時間を自ら感じてきました。
 
だからこそ、PhươngとAnmira Hoi Anのつながりは、単に考え方が似ているというだけではありません。そこには、実際に滞在し、観察し、その土地から受け取ったものを自然に創作へとつなげていく、ひとつの体験があります。
 
Phương Giòの創作の痕跡は、彼が手がけたランタンや装飾品などを通して、Anmira Hoi Anの空間にも息づいています。それらは独立した作品として展示されるのではなく、建築や日々の空間に自然に溶け込み、この場所ならではの素朴さや温もり、手仕事の風合いを形づくる一部となっています。



ドー紙のランタン
Nguyễn Đức Phương
出典:Anmira Hoi An
 
こうしたつながりを通して、Anmira Hoi Anは、ただ休息のためだけの場所ではなくなっていきます。ここでは、普段なら何気なく通り過ぎてしまうものに、少し違った眼差しを向ける時間があります。
 
手仕事から生まれる素材、庭の一角、客室に差し込む光、そして土地の日常に息づく文化の面影。ゆっくりと過ごすなかで、そうした身近なものをあらためて見つめ、その土地らしさに触れていくことができます。
 
出典:Anmira Hoi An
 
そして、こうした時間こそが、Anmira Hoi Anでの滞在を心に残るものにしています。旅人は、よく知られた象徴を眺めるだけではなく、日々のホイアンを形づくる素材や風景のなかで歩みをゆるめ、その土地の暮らしに触れることができます。
 
アート、自然、手仕事、文化は、それぞれが独立した「見どころ」として切り離されているのではありません。日々を過ごす空間のなかに自然に溶け込み、ここで過ごす一日一日そのものが、ホイアンという土地を知るための小さな旅となっていきます。
 
その思いは、2026年9月にAnmira Hoi Anで開催予定の中秋節ワークショップへと受け継がれます。Phươngが再び、ランタンと中秋節の記憶を、自らの手でものをつくる体験へとつなげます。
 
ランタンの灯りが日々の風景の一部として親しまれてきたホイアン。この場所で行われるワークショップは、中秋の月にまつわる記憶を呼び起こすだけでなく、一人ひとりが自らの手で、自分だけの記憶や個性を宿したひとつのランタンをつくる機会にもなるでしょう。
 
ドー紙ランタン・ワークショップ ポスター
出典:Anmira Hoi An
 
Phương Giòのアートが、素朴な素材のなかに息づく記憶をたどる旅だとすれば、Anmira Hoi Anもまた、土地に受け継がれてきた記憶や価値が、今も生き、感じられ、新たなかたちで語り継がれていくための場所をつくっています。
 
だからこそPhươngにとって、ここは単に滞在する場所ではなく、見つめ、つながり、そして新たな創作へと向かう場所にもなっているのかもしれません。
 

4. Nguyễn Đức Phương(Phương Giò)についてよくある質問

1. Nguyễn Đức Phương(Phương Giò)とはどのようなアーティストですか?

Nguyễn Đức Phươngは、Phương Giòの名でも知られるベトナム人アーティストです。2007年にベトナム美術大学を卒業し、絵画、陶芸、彫刻、インスタレーションなど、さまざまな素材と表現方法を用いて制作を続けています。日々の暮らしや民俗文化、土地に根ざした素材、そして場所にまつわる記憶は、彼の創作における大切なテーマとなっています。
 

2. なぜ「Phương Giò」という名前で活動しているのですか?

「Phương Giò」という名前は、彼の故郷と家業に由来しています。Phươngは、ベトナムの伝統的なハム「giò chả」づくりで知られるƯớc Lễ村の出身です。家族もこの仕事に携わっており、彼自身もかつてgiòづくりをしていました。
 
大学卒業後、彼は「Phương Giò」という名前で自身を紹介し、作品にもこの名で署名するようになります。それ以来、Phương Giòは彼のアーティストとしての歩みとともに広く知られる名前となりました。
 

3. Phương Giòはどのような芸術スタイルを追求していますか?

Phương Giòは、ひとつのスタイルや素材に自らを限定していません。絵画、陶芸、彫刻、インスタレーションなど幅広い表現に取り組み、その多くはベトナムの暮らしや文化への観察から始まります。
 
表現をできるだけシンプルにそぎ落としながら、身近な素材や見慣れたイメージを新たな視点から捉え直していくことも、彼の制作の特徴のひとつです。
 

4. Phương Giòの代表的な展覧会やアートプロジェクトにはどのようなものがありますか?

代表的な展覧会やプロジェクトには、Manzi Art Spaceで開催された《Ngắm giấy》(2017)、VCCAでの《Tỏa 2》(2018)、Manziでの《In Situ》(2019)、《Xem đêm – Càng đêm》(2020)、Đàn ĐóとともにVCCAで発表した《Đó là đâu – Đó là đây》(2020)などがあります。
 
また、2018年にはA. Farmのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、2023年にはSix Senses Côn Đảoで開催されたプロジェクト《SỰ SỐNG》でアートディレクターを務めました。
 

5. なぜPhương Giòは土やドー紙、民俗文化に根ざした素材に関心を持っているのですか?

土やドー紙、自然素材、民俗的な表現は、ベトナムの暮らしや記憶、文化と深く結びついており、Phươngが長年にわたって探求し、試行を重ねてきたものです。
 
彼にとって、こうした素材は単に作品のかたちをつくるためだけのものではありません。そこには土地の痕跡や伝統的な手仕事、世代を越えて受け継がれてきた物語が宿っています。Phươngは、そうした身近なものを現代の視点から捉え直し、作品へとつなげています。
 

6. Phương GiòはAnmira Hoi Anのためにどのような作品を制作しましたか?

Phương Giòは、Anmira Hoi Anの空間のために、ドー紙を使ったランタンをいくつか制作しています。ランタンには彼自身が水彩で絵や色を加え、手仕事ならではの表情と彩りを生み出しています。
 
それらは単独の展示作品として置かれるのではなく、Anmira Hoi Anの建築やさまざまな素材が織りなす空間に自然に溶け込み、この場所ならではの雰囲気を形づくる一部となっています。

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お問い合わせ:
 
Anmira Hội An Village of Arts & Culture
住所: 276 Cua Dai Street, Hoi An Dong Ward, Da Nang City, Vietnam
 
電話番号:+84 235 3923 999
メールアドレス:reservations@anmiraresort.com
公式ウェブサイト:https://anmiraresort.com/
 
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